声明と要求 ”このままでは「社会福祉」がなくなってしまいます


声明と要求  
改定介護保険法で広がる利用負担増と経営危機の深刻な実態

このままでは「社会福祉」がなくなってしまいます
いまこそ憲法と老人福祉法にもとづく社会福祉を



特別養護老人ホームを「有料老人ホーム」にしていいのでしょうか
在宅高齢者は「介護予防」だけで暮らしを支えられるのでしょうか
生活困難、虐待、孤立、援助困難な高齢者を一体誰が援助するのでしょうか

           2005年12月4日
 21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会

05年6月22日、改定介護保険法が成立、10月には、準備期間もないまま混乱の中で、食住費の利用者負担及び関連する給付費の改定が一部前倒しで強行されました。
 今回の改定の本質は社会保障、社会福祉の根幹を揺るがす重大なものです。
 すなわち、社会福祉とは食や住、所得保障などの生活部分を土台としつつ様々なハンデイキャップに対する援助を行なうものであり、生活の基礎部分を社会福祉から切り離すこと自体、すでに社会福祉を否定するものです。このようなことがまかり通れば、例えば特別養護老人ホームと有料老人ホームのどこが違うこととなるのでしょうか。また、食住費の負担増への悲鳴や、折角の特養入所を断るなどの利用抑制や制限が行なわれている事実は、そのことを如実に物語っています。これらの実態は介護保険制度創設の理念=社会的介護からの逸脱でもあります。
 その上「低所得者には配慮」するとして「特定入所者」への「補足的給付」という制度を導入しましたが、その対象者は特養では83%にも及びます。福祉の一般化や普遍化が叫ばれるなか、殆どの入所者に補足しなければならない制度とは、現在の高齢者の年金所得がいかに乏しいものであるかということや、改定法がいかに道理にあわないかを明らかにしています。また、社会福祉法人による軽減制度を拡大するとしましたが、厳しい軽減要項のもとで結果的には拡大どころか、その対象者も軽減額も殆どの場合縮小されるものとなっています。
 また、医療制度改革において高齢者の医療費本人負担増に示されるように、医療と福祉が、公的責任の後退、形骸化と国民負担の増をキャッチボールしながら競い合っていることも黙過できません。
 さて、このような改定介護保険法が、来春から本格実施となります。その中心的な内容として新予防給付や地域包括支援センターの設置、小規模多機能型居宅介護事業の創設と地域密着型事業の市町村への許認可権移行などが特徴づけられます。果たして、これらの事業が真に必要かつ有効で、高齢者や介護者のニーズに合致するものでしょうか。
 新予防給付の対象者は、要介護@の中から認定審査会においてスクリーニングするとしていますが、要介護認定の上に再度にわたる「行政処分」が必要かつ適切なのでしょうか。また、その対象者は要介護認定者の4割に及ぶとされますが、果たして地域包括支援センターの3名の職員で適切なマネージメントができるのでしょうか。また、今計画されている予防給付メニューが本当に自立を促すものとなるのでしょうか。
 小規模多機能型居宅介護事業が地域で暮らし続けたいというニーズに応え、その方策の一つとなる可能性があるとしても、完全な「囲いこみ」による他サービスの利用制限は介護保険法の理念である「選択による自由なサービス利用」からも逸脱します。また、この施策は決して特養の代替施設ではありません。高齢者福祉の中核的な役割を担う特養の増設は多くの待機者の切なる願いであり、また、それが福祉増進の土台を築くのです。
 また、地域包括支援センターの開設にむけての準備や意向調査が行われ、小規模多機能型居宅介護事業の開設準備も促進されていますが、肝心の給付の額や職員体制の詳細は不明瞭なままです。「契約金額」を明示しないまま「委託契約」や新規事業を強引にすすめるやり方に、多くの施設長も、一方で使命感をもちつつ不安と不満を顕にしています。
 その上、来年春には再び介護給付費が改定されることとなります。10月の前倒し実施に伴う介護給付費の削減に加え、来春には一部の事業を除いて一層大幅な減改定が予定されています。「介護保険事業所の利益率」なるものが取り沙汰され、「黒字だから減改定する」という論理がまかり通っています。しかし、実態はいかなるものでしょうか。その多くは厚労省が示す「経営努力」と職員へのしわ寄せによって生まれたものです。努力の結果が減改定へとつながり、また、職員へのしわ寄せは、福祉現場の雇用環境を著しく阻害し、福祉従事者の「空洞化」が生まれつつあります。

 私たち21・老福連は、介護保険改定論議の最中である04年7月と05年3月に「国の責任によって誰もが、無理のない負担で、尊厳ある人生を送ることのできる介護保障制度とすること」を基調とした声明を発表し、署名活動によって多くの方から賛同を得てきました。
 持続可能な制度を、といわれますが、制度は人のためにあるものです。福祉サービス利用の当事者も福祉に従事する者からも、不満と不安がよぎる事態を一刻も打開し、未来ある真の介護保障制度へと改変することこそ緊急不可欠だと痛感しています。

 従って、改定介護保険制度の成立と10月前倒し実施による事態が明らかとなった今日、当面する緊急な事項に限って以下のとおり要望するものです。

  私たちは、国の責任によって、誰もが無理のない負担で、尊厳ある人生をおくることのできる 介護保障制度を求めます

1・食住費は応能負担とし、低所得者に対しては公費で負担すること。
 なお、今回の改定は一旦白紙にもどし、これまでどおり介護給付によって保障すること。
2・低所得者への軽減措置は公費によって保障すること。 
 なお、社福法人による軽減制度は、その対象や割合を拡大するとともに、社福法人への
 公費助成を拡大すること
3・介護予防事業はこれまで通り公的な施策として拡大強化を図ること。
4・地域包括支援センターを委託する場合、十分な職員配置と給与等の保障に値する委託
 費とすること。また、地域型在宅介護支援センターは地域住民の身近な暮らしや介護に
かかる総合的な相談窓口として、その活動の強化を保障すること。
5・地域密着型事業の実施にあたっては、市町村に対して財政的支援を行い、また、著し
い地域間格差が生じないように取り組むこと。
6・施設の運営や職員の労働実態を正確に反映した介護給付費として増額すること。
 給付費の算定にあたっては、職員配置基準を改善し安全と安心、適切な業務量により人
間らしく仕事ができるものとすること。また、働く意欲や情熱が注がれる福祉職場とな
り、専門職にふさわしい身分給与等の保障が行える水準とすること。