●声明と要求

 

改定介護保険の施行を控え、福祉現場も地方自治体も大混乱です。
利用者そっちのけの強行実施に抗議します。
拙速な実施をさけて、利用者への事前説明と十分な体制確立を先行させてください。

21・老福連の緊急アピール

 介護保険制度は、全面見直しにより国民の期待からますます離れ、老人福祉がないがしろにされようとしています。私たちは、「誰もが安心して老いることのできる老人福祉制度の確立」を望みます。

 
平成18年3月31日
21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会
(略称/21・老福連)  

 介護保険制度導入から6年。この4月からはじまる制度の大幅見直しにより、日本の老人福祉制度の根幹が大きく変貌し、まさに市場経済原理がすべてに優先されることが明白になりました。2003年6月発表の「2015年の高齢者介護」から翌年の社会保障審議会介護保険部会による「介護保険制度の見直しに関する意見」において示されていたことが現実になったわけです。
 介護保険制度の財政的破綻を避けるため、「制度の持続可能性の確保」が錦の御旗となり、金の論理がすべてに優先される改定となりました。その結果、生活に困難が生じている老人にますます必要なケアが行き届きにくくなくなりました。具体的には、「介護予防」という新たな概念を利用し、利用者の半分近くを占める軽介護者の利用制限を制度化したことです。元来、介護が必要になったら利用するために国民が苦労して納めた介護保険料が介護予防に使われることも納得がいきません。しかも、介護予防給付しか受けられない「要支援者」になるか、介護サービスも受けられる「要介護者」になるかは、本人の意思を無視しての行政処分です。介護保険制度導入時にあれほど喧伝された「利用者本位」はどこにいってしまったのでしょうか。
 さらに、介護予防を徹底するため、要介護認定では非該当になる元気な高齢者であっても「一般高齢者」と「特定高齢者」に分け、後者には「地域包括支援センター」による「地域支援事業」なるものを実施し、この人々が要支援者になるのを防ごうとしています。高齢者は大きく「一般高齢者」「特定高齢者」「要支援者」「要介護者」の4つに分けられ、さらに「要支援者」は2つに、「要介護者」は5つに分けられこととなるのです。
  人が老いていくのは自然のことであるのに、9つのクラスに分類され、受けられるサービスが規制されるのです。年をとったら、必要なケアを受けられるはずではなかったのでしょうか。このように複雑なシステムを正しく理解して利用できる高齢者は非常に少ないでしょう。これらは「利用者本位」の原則から大きく逸脱するとともに、かつて公的責任に基づく制度を「行政処分」として忌み嫌いながら、結局のところ、ますます「処分」に近くなっています。その上、「処分」も専ら民間事業者に任され行政責任が一層後退しています。もっと単純でわかりやすい制度を強く求めます。
 かねてから私たちは、膨大な費用と労力と時間を費やし、利用者にとっては無意味で利用制限につながる要介護認定は廃止し、良質なマネージメント能力を備えた専門的な資格者により必要なケアを必要な時に受けられるようにすべきであると主張してきました。今回の改定は、認定の種類をさらに増やし、税金の無駄遣いに他なりません。
 「制度の持続可能性の確保」ということから、介護報酬をできるだけ削減することになり、居住費、食費に加えて、施設における介護福祉サービス費の報酬減(多床室)、事業者の経営はますます厳しくなりました。職員の非常勤化と給与の削減が広まり、介護福祉の現場は若い人にとってますます魅力のない職場になりそうです。これはきわめて由々しき問題であります。
 養護老人ホームの制度改定も大きな波紋を呼びそうです。とりあえず、外部サービス利用型措置施設に移行するわけですが、この場合、@個別契約型、A外部サービス利用型特定施設 の二つの選択肢があるのですが、措置費はかなり減額となり、Aをとっても介護報酬額より職員配置に必要な費用の方が大きいことから、どちらにしろ、経営を圧迫することは必至です。
 また、Aの指定を受けると、要介護の人もどんどん受け入れることになり、養護老人ホームの特養化が進行することになり、極めて問題があります。「老人問題」は介護だけが全てでは決してありません。ADL的にはそれほど問題はないものの、一人では生活に支障をきたす人のための施設は絶対になくしてはならないわけで、特養化を防ぐための何らかの手立てが必要になると考えます。また、大きな不安材料は、老人保護措置費に関する国の要綱が「指針」になり、国は技術的助言の範囲にとどまり、裁量権が市町村に移ったことです。養護老人ホームに対する市町村の考えは相当のばらつきがあることから、最低保障の水準が大きく異ならないことを強く求めるものです。
 このように、今回の介護保険法の全面見直しには数多くの問題があります。くわえて、認定や給付の仕組み、地域包括支援センターという新たな機構設置など制度の根幹にかかる大改定となっています。そのような中で、「ケアマネ難民」の出現とか体制が整わない包括支援センターなどとマスコミからも指摘される事態が起きています。3月に入ってから出された通知に地方自治体は戸惑いを隠せず事業所説明会も、法施行ギリギリの3月下旬というところもあります。そして数々の疑義には、毎日ワムネット(厚生労働省が発信するインターネット情報・毎日のようにQ&Aを追加))を見なければ、何も分からないという事態は異常としか言いようがありません。
 これらの姿は、改定を余りにも拙速に強行した結果に他なりません。
したがって、私どもは、改定介護保険制度実施を控えた今日、緊急に次の事項を強く要望するものです。

 

1・ いま改定介護保険の施行を控え、福祉現場も地方自治体も大混乱し、あらたな施策に対応する体制も整っておりません。
 @ 利用者不在の強行実施は、とりあえず1年延期し、利用者への事前説明と十分な体制確立を先行させてください。
 A

「ケアマネ難民」が出現する事態を避けるために、居宅支援における標準担当件数超過にかかる報酬逓減規定の実施を、とりあえず1年延期してください。

 

2・ 私たちは、国の責任によって、誰もが無理のない負担で、尊厳ある人生をおくることができる介護保障制度を求めます。
 @ 要介護認定で非該当の人への介護保険財源の充当はやめ、介護予防事業はこれまで通り公的な施策として拡大強化を図ること。その際、非該当者のスクリーニングによる分類はやめること。
 A 要介護認定制度を廃止し、高齢者を要介護度などで細かく階層化することをやめ、有資格者による判断で、必要な人に必要なケアが与えられるようにすること。
 B 低所得者への軽減措置は公費により保障すること。同時に、介護保険料の大幅増が見込まれる中、介護保険料の逆進性を見直し、累進性にすること。
 C 在宅復帰に偏った政策を見直し、必要な施設整備をおこなうこと。当面、緊急に10万人分の特養増設3ヶ年計画を策定し、4分の3の公費による建設補助によって整備すること。
 D 中重度者への支援強化や療養病床の削減等により、生活の場である特養が病院化しないよう必要な措置を講じること。
 E 軽介護者が、契約するべき介護支援専門員を見出すのに困難を生じないよう、適切な策を打ち出すこと。
 F 養護老人ホームの制度改革にあたり、当面次の対策を実施すること。
・養護老人ホームにおける介護保険サービス利用による養護老人ホームの特養化を防ぐため、入居者のADLレベルに一定の制限を設ける等の措置を講ずること。
・養護老人ホームの宿直勤または夜勤体制における「1以上の支援員による」という職種の規制を緩和すること。(基準省令の第12条第10項)
・すべての養護老人ホームの居室定員や居室面積が、一日も早く新しい基準を満たすよう、必要な公的補助をおこなうこと。
・大都市では養護老人ホームへの入居待機者も多く、養護老人ホームの必要性が高いので、国の責任において必要な養護老人ホームを建設すること。
 G 国から市町村への大幅な権限委譲が行われる中、福祉施策で自治体間に大きなバラツキが生じないよう適切な施策を講じること。
 H 施設サービス給付費は、専門職にふさわしい身分保障と職員の働く意欲や情熱を維持できるものに増額すること。
 I 介護保険料の改定も全国的に著しい増額となっていることに加え、税制改革により更に負担区分がアップする被保険者も増えることから、少なくとも国の負担を介護保険制度前の5割に戻すことで保険料を引き下げること。

 

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