●緊急声明

介護保険制度全面見直しにかかる国会審議にあたって

特養ホームなどの居住費用(光熱水費を含む)、
食費全額徴収に反対!            
新予防給付は一旦白紙にもどして再検討を!  

これ以上の負担の増とサービスの利用抑制は許せません。 国の責任によって、誰もが、無理のない負担で、尊厳ある人生を送ることのできる介護保障制度とすることを求めます。

                    2005年3月1日    
21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会
〒603-8173 京都市北区小山下初音町24
電話 075-494-1115  FAX 075-494-1135

 

 去る2月8日、介護保険法の改定案が国会に上程され、本格的な審議が始まろうとしています。改定案の内容は、予てより取り沙汰されていましたが、保険制度の本質がいよいよ明らかとなるものです。その中味はいろいろありますが、一言で言えばとてつもない負担の増大とサービスの利用制限、そして限りない国の責任放棄でしかありません。
 また、障害福祉についても、介護保険との統合や被保険者拡大も視野に入れ、「障害者自立支援法案」による「定率、応益負担」導入によって障害者の負担が大幅に引き上げられようとしています。
 改定案の内容を見る限り、特養を始めとした施設サービスにかかる居住費や食費の全額負担、通所介護における食費負担増など、利用者負担の増加は、サービスの利用抑制を生みだし、低所得者をサービスから締め出すこととなることは疑う余地がありません。また、新予防給付なるものを制度化し、サービスの利用制限と共に本来公的に行なってきた老人保健事業までも介護保険制度に取り込み、加えて低所得者対策として新たに補足的給付として減額措置までも保険財政に委ねようとしています。結局のところ改定の最大の理由は財源問題であり、改定の狙いは、その財源の多くを限りなく国民、利用者負担で賄おうとするものです。これでは、改定の基本理念で言う高齢者の尊厳を守ることも、基本的視点で挙げている制度の持続可能性を高めることも、実現不可能と言わざるを得ません。

 私たちは、国の責任によって誰もが、無理のない負担で、尊厳ある人生を送ることのできる介護保障制度を実現するため、昨年2回にわたって政策提言を行なってきましたが、改定法案が上程されて国会審議が始まろうとしている今日、当面の焦点となっている課題に絞って、以下の諸点について改善を求めて、緊急提案を行なうものです。

1・ホテルコスト(居住費用)、食費全額徴収には反対!
  又、05年10月実施という前倒しはルール違反です。
 特別養護老人ホームは老人福祉法に基づく社会福祉施設です。介護施設とも称されますが、「介護」にはその大前提として「生活」の保障があり、「生活と介護」が一体的に提供されてこそ成り立つものであり、両者を区分することは不可能であり整合性もありません。敢えていえば、食事や居住の保障はあくまでも憲法25条と老人福祉法に基づく権利としての社会福祉の保障であって「応益負担」の対象とはならないのです。そもそも高齢者福祉は総合的な生活援助であり、食事はその重要な内容の一つです。食材費相当についてはこれまでも利用者が負担をしてきており、介護・生活援助にかかわる人件費を含む全ての費用を利用者負担とすれば、それはもう福祉ではなくなってしまい、その根拠はどこにもありません。
 また、通所介護や通所リハビリの食費、ショートステイの食費・ホテルコストについてまでも全額利用者の負担とし、食事提供体制加算を廃止することになっています。施設サービスについて在宅との不均衡をいうなら、在宅サービスである通所や短期入所事業からも食費やホテルコストを全額徴収することは二重払いともなり、論理的に矛盾することとなります。在宅生活援助の一環として提供される食事や住居費を全額徴収することは不当であり、引き続きこれまでどおり保障されるべきです。
 ましてや、法改正に先立って本年10月から前倒しで実施することは、減免措置にかかわる保険料負担区分の変更や介護報酬の改訂との関係だけを考えても、文字通りの暴挙といわざるを得ません。介護保険法による改訂などは3年ごとに見直しを行なうこととして介護保険事業計画が策定されており、保険者である市町村もその予定で進めている筈です。期間半ばにして「自由な変更」を行なうことは明かにルール違反です。果たして、このような官僚による専横がまかり通ってよいものでしょうか。

2・まずもって生存権保障を公費によって行なうこと
その上で、低所得者対策は公費によって抜本的な拡充を

 制度の改廃時には、あたかも低所得者対策を行なうことで「低所得者に優しい制度」とするかのように言われています。そして、今回の改訂案では、ホテルコストや食費全額徴収が困難な対象者を、唐突に「特定入所者」とし、「補足的給付」を行なうことで低所得者対策が充分であるかのように喧伝しています。しかし、本来それらは決して「特別の対策」ではなく、老人福祉法に基づく生存権保障として国の責任において行なわれるべきものです。厚労省の資料によっても減免対象となる特養入所者は83%に及ぶという現実は、そのことを明確に示しています。このことは、まずもって生存権保障を公費によって行なうことこそ先決であることを物語っています。
 しかも、減免にあたっての財源は介護保険です。即ち被保険者の負担によって減免措置を講じることとなります。その結果、減免すればするほど保険財源が大きくなっていく要因ともなり、それでは被保険者の理解も納得も得られる筈がありませんし、制度の将来の安定を保障するものとも相容れません。ホテルコストや食費についての減免制度は公費財源によって保障されること、また、社会福祉法人の減免制度への公費助成の基準なども含めて、抜本的に拡充することこそ重要です。

3・軽介護者への給付抑制となる新予防給付は
  一旦白紙に戻して再検討を

  介護予防が必要不可欠な事業であることは疑う余地がありません。遅きに失したとはいえ、抜本的な介護予防事業を拡充することは重要なことです。しかしながら、介護保険制度を再編成し、しかも、介護保険事業によって行なうことには大きな問題があります。

@ 介護保険法における要支援者の定義を「要介護状態となるおそれがある状態にある者」(介護保険法第7条)と明確に規定されていますが、これを「要介護状態の軽減、悪化の防止に特に資する支援を要する状態の者」に変更することで、介護予防としては従来公費によって公的施策として行なわれてきた福祉施策や老人保健事業などまでを保険料負担を基礎とする介護保険給付に取り込もうとしています。これは、給付の適正化や削減と言いながら、その実は費用総額を増大させていることとなって保険料の増加へと繋がっていき、新たな矛盾となります。これでは介護保険法の精神や規定をも踏みにじり、国と自治体の責任を投げ捨てるものと言わざるを得ません。

A 新予防給付の対象は要支援と要介護・1の対象者からスクリーニングし、サービス内容や期間を決めるように言われています。区分の概念やスクリーニングの基準も明確でなく、サービス利用にかかわる支給や限度額も定かでありません。何もかもが政令省令で決められるとされており、結局は厚労省の匙加減一つになってしまいます。しかも、そもそも介護保険制度創設時の理念=サービスの選択、契約によるサービス利用という主旨からも逸脱するものです。ましてや、「措置は行政処分」と批判し、「措置から契約へ」と謳ったものの、要介護認定によって行政処分を行ない、その上に、新予防給付対象者を行政処分によって決定するとは、この二重の行政処分をどのように説明するのでしょうか。つまりは、増えつづける介護ニーズに対する制限以外の何物でもなく、これによってささやかな生活の支えを奪われる軽介護高齢者の不安は深刻です。

B 軽介護者への給付抑制となる新予防給付の制度化は、在宅の独居等の高齢者はもとよりケアハウスの入居者にとって深刻な事態を招きます。厚労省はケアハウスに対して、訪問介護やデイサービスの利用によって生活援助を支えるように指導を行なってきましたが、これにより運営等を根底から覆すこととなり到底容認できるものではありません。

C 在宅介護支援センターは、この間、福祉援助の責任を事実上放棄してしまった福祉事務所にかわる高齢者・家族の身近かな老人福祉の相談拠点として、貧弱な委託条件のもとで、介護保険だけにとどまらないさまざまな生活援助の業務を担ってとりくんできました。それを、介護予防を名目とした「地域包括支援センター」への統廃合など再編が推し進められれば、福祉援助の後退・切り捨てとなることは誰が見ても明らかです。混乱を招く「地域包括支援センター」の創設をやめ、在宅介護支援センターの一層の充実を図るべきです。

4・一般財源化や施設整備にかかる交付金制度は国の責任放棄
  また、措置施設としての養護老人ホームの存続を

  軽費老人ホームの一般財源化についで、養護老人ホームの措置費までもが税源委譲の対象となり一般財源化されれば、ますます公的な責任が後退することとなります。セーフティネットの役割が大きい養護老人ホームが、国の責任において入所保障されず、また、その存在や運営が市町村の裁量によって左右されるようでは憲法25条に示される生存権保障の大きな後退、侵害です。
 今回の養護老人ホームの改革案は、措置の要件から身体上の理由と精神上の理由を除いたことにより、養護老人ホームを単なるケア付き住宅に変質させ、そこで必要な目配りをすべて介護保険の在宅サービスで行うという現実を無視した無謀な提案です。これでは養護老人ホームがこれまで果たしてきた社会的要援護者に対する最後の総合的生活保障の場としての役割を果たすことができなくなります。養護老人ホームは、従来の措置制度の問題点を改善した上で、措置施設として国の責任において財源保障し、その上で、利用者が望む場合には、被保険者として当然の権利である介護保険の在宅サービスも利用できるようにすべきです。
 また、特養には33万人を超える待機者が存在し、整備促進が求められているにも関わらず、施設整備補助制度は交付金制度へと変えられました。特養は老人福祉法の定める施設であり、特養の存在が高齢者介護の基幹的役割を果たしていることは紛れもない事実であり、その増設整備は公的な責任で行なわなければなりません。交付金制度により国の責任が後退し、ひいては市町村においても整備促進に陰りをみせることは容易に想像できます。
 国と地方自治体の責任において施設整備を行なうこと、またセーフティネットとしての養護老人ホームの整備や運営については、国の責任において財源保障することこそ高齢者の生活と介護を保障する公的な責任です。

5・必要な情報開示と充分な国民的論議を
 今回の見直しの内容と経過は、厚生労働省の官僚主導型の御都合主義、政省令や通知・通達・ガイドラインなどに肝心な部分を委ねた欠陥法である「介護保険法」を悪用した暴挙と言わざるを得ません。とりわけ特養など施設サービス利用者からの食費・居住費徴収の前倒し実施は、その典型です。
 社会保障審議会介護保険部会を始めとした審議内容はインターネットを始めとして、あたかも情報開示が充分なされているように言われますが、提案された介護保険法改訂案では、事業者の認定や運営の基準、給付にあたっての基準や内容にしても、相変わらず殆どの部分が政省令によって定めるものとなっています。結局一番大切な部分、肝心で知りたい内容は、わからないままです。これでは、公平で実りある論議となる訳がありませんし、国民の理解と納得を得られる筈がありません。
  制度の根幹にかかわるものは、きちんと説明責任を果たすことこそ必要であり、それが厚労省の責任ではないでしょうか。介護保険事業者には、利用者に対して説明責任を説き、自らは、事業者や国民に対して「後で知らせる」ということが通用するのでしょうか。

6・尊厳に値する公的な介護保障制度を
 まずもって、国の負担率を元に戻すことで多くは解決、改善されます
 介護保険制度施行5年後の全面見直しは、負担増にしても、新予防給付なるものにしても結局は保険財政のみにとらわれた「見直し」でしかありません。そもそも介護保険制度の創設そのものが、将来の介護費用の負担を国民に転嫁することで創設されたものであり、極めて不純な動機であったことが最大の問題でした。よって、国の負担がかつての50%から25%へと半減したのでした。即ち、諸悪の根源は、国の負担率の後退にあり、まずもって、それを元に戻すことから始めれば、解決、改善できる課題は多いのです。
 今、必要なことは、文字通り個々人の尊厳が大切にされ、お金に心配することなく、必要な時に必要なだけのサービスを利用することのできる介護保障制度であり、それが権利として享受できるように、国の責任において保障されることです。

 21老福連は、誰もが無理のない負担で尊厳ある人生を送ることのできる公的介護保障制度の実現にむけて、ともに力を合わせることを呼びかけ、また、この声明にもとづき活動を続けることを宣言するものです。

主張・活動の紹介トップへ

戻る