●主張・活動の紹介

 

真に国民の期待に応える老人福祉の構築を
=05年の介護保険制度全面的見直しを控えて=

21・老福連の政策提言

もくじ|3|

3・老人福祉の中心的な担い手=特養の役割と機能強化こそ急務

 先に述べたグループホームケアもユニットケアも、小規模多機能施設もサテライト事業もこれから目指すべき福祉の形として位置づけられるものであり、名実ともに必要な人に全て享受できる制度として発展させることが必要であり、当然であると考えています。
 そのためにも、先に述べたような基本的な立場に立脚し、当面、緊急に以下の点について中心的課題として対処、改善することが必要と考えます。

@特養の待機者対策=ニーズに見合う増設こそ緊急の課題

 何故、特養の入所待機者が爆発的に増え続けるか。大きく分けて2つの側面が存在します。一つは、特養のもつ機能です。特養には、介護機能はもとより、その前提として住居機能、家事機能、安心機能、緊急機能、医療機能があり、しかも24時間365日隙間なく援助できる機能があります。介護施設といわれますが生活と介護の全ての機能をもち、しかも如何なる重度の障害であっても人としての尊厳を守る援助を目指して惜しみない努力を行なっているからこそ、入所希望が後をたたないのです。
 もう一つは、費用負担です。今日、生活支援ハウスなど一部の公的福祉施設を除いて1ヶ月5〜6万円程度で利用できる生活施設は存在しません。いかに「豊かな日本」と宣伝されようとも、年金受給者2725万人の内、年金給付が僅か月額3〜4万円でしかないという高齢者が実に40%も存在します。そのような所得状況のもとでは施設サービスを選ぶ以外に方策がないものとなっているのです。言わば自由な選択権が存在しないのです。主にはこれら2つの理由によって特養への利用ニーズが高まり入所申請が相次ぐこととなっているものと思われます。そこには、実に多様な役割や機能をもち、利用者や家族から絶対的な信頼が寄せられ、低所得であっても利用できる特養の優位性が明瞭となっています。加えて、仮に小規模多機能施設がいくら整備されようとも特養が老人福祉の基幹的な施策、事業として果たす役割は些かも揺るぎはしないものと思われます。それは、いかなる障害や生活の状態であっても生命と暮らしの尊厳を守り得る施設として、また、援助の専門性の蓄積や職員の資質向上を確立するための中軸として日本の老人福祉の土台、基幹的な役割を担うものとして存在するからです。したがって、これらの役割を明確にし、特養を思いきって増設することこそ緊急焦眉の課題です。

A入所指針、入所基準によって待機者問題は解決されない

 膨大な数字にのぼる入所申請や待機者に対して、「緊急、必要でない者まで申請している」「順番制により必要度の高い人が入れない」「費用が安いから殺到する」と称して、真に老人ホームへの入所を必要とする人を優先的に入所できる仕組みとして入所指針の策定が市町村に義務付けられました。そして、特養では、これを受けて入所基準を策定することとなりました。
 所謂「優先入所」と言われますが、果たして本当に必要な人が優先されて直ぐに入所が叶うのでしょうか。この指針に基づき、全国的には点数制をはじめ様々な判定基準が設けられて実施されていますが、共通することとして、大きく分けて3つの問題を孕んでいます。
 一つは、いかに点数等が高く緊急度が高いといっても直ぐには入所できない現実が存在することです。 膨大な待機者の中で、優先対象のランクとなっても、その中でまたトップクラスでないと入所できません。何故なら通常、欠員は1名しか生まれませんし、平均的には1年間で各々の施設定員の1割程度しか欠員がでないからです。要するに、特養の増設により、この狭き門を広げる以外に解決の道はないのです。
 二つ目は、優先すべき人を決めるということは、逆に、優先する必要のない人=即ち、入所は絶対的、或いは殆ど無理という人を決めるということです。申し込みはしているけれど、「入所不可」との烙印を押すような判断をして良いのでしょうか。自己の選択によるサービス利用という介護保険制度の原則は、一体どこに行ったのでしょうか……。
 最後には、以上の判定を施設がすること、結果についての責任を施設が負うことです。 かつて入所判定は市町村が判定委員会を設置し、市町村の責任で行なっていました。そして直ぐには入所ができないのは今日と同じですが、待機中のフォロー=他サービスの利用や各種の支援策を講じ、生活のサポートを行ない、その責任を果たす努力をしていました。しかるに今日は、個々の施設が入所の必要度や緊急度、そして入所ができる、できないを判断する訳ですが、待機者に対してどのような責任が果たせるというのでしょうか。それは行政の責任ではないのでしょうか。ここに公的責任後退の姿=福祉の後退の姿を見出すことができます。
 付け加えておくと「費用が安いから特養に申し込みが殺到する」と批判がましく言われますが、介護保険制度施行の折には、当時の特養の費用負担を巡って「最高24万円という高額な費用負担によって、結果的に中高所得層から敬遠される」と言って、負担を軽減することで福祉の一般化普遍化を促進しようとしたのは当の厚生省だったのではないのでしょうか。

B全ての特養を全室個室にする方策を

 尊厳ある援助や個の尊重を行なうために絶対的に必要なものの一つは個室化です。生活施設でありながらプライバシーが尊重されない雑居部屋であるところにそもそもの問題があります。すでに厚生労働省において今後の特養整備にあっては全室個室を基本としていますが、既存施設に対する個室化方策は明瞭ではありません。2005年までの整備計画を含めて計算しますと、05年には36万人分の定員(ゴールドプラン21)となりますが、その内、概ね10万人程度が個室利用できても、25万人程度は雑居部屋のままとなります。これを含め全ての特養について公的補助制度によって計画的に全室個室化を実現する方策を講じることは、プライバシーの保護=即ち、人権擁護であり、人権は国民の権利として、法のもとの平等を実現するためにも必要不可欠なことです。

C個室化の願いを費用問題にすりかえるホテルコスト徴収には反対

 この間、国民の願いに応える形で進んできた個室ユニット化と抱き合わせでホテルコスト(居住費)の利用者負担が強行されています。その根本は、施設整備にかかる補助金の算定ルールを変更し公的補助を減らしたことですが、中でも、個室関連部分を整備補助から除外することによってホテルコストの徴収を強要するという手法をとっているのです。しかも、生活保護受給者は小規模生活単位型特養(個室)には入所できないとまで言われています。(03年3月14日シルバー新報報道)
 これは明かに差別であり、法のもとの平等からの逸脱です。
 その上、制度改革の動きの中で、従来型の特養についてまでも居住管理費の徴収が取り沙汰されていますが、施設入所による生活援助を必要としている高齢者に対して、憲法が保障する生存権の基礎である居住保障を取り払い、とりわけ低所得者の高齢者を施設から排除することになることは明らかです。これでは、かつての救貧救護の時代から福祉の発展を築いてきた歴史を逆戻りさせるもので、許すことはできません。
 今日ホテルコストを巡っては、各種の制度によって差異が生まれていることは周知のとおりです。有料老人ホームはもとより有料ですが、ケアハウスやグループホームなど制度の出発時点での経過や判断があって一部ホテルコストの徴収が行なわれています。しかし、特養においては出発時点はもとより、その後の面積基準や設備基準など幾つかの改善の中でもホテルコスト徴収の考えはありませんでした。それは、特養が唯一「終いの棲家」として位置づけられ、先に述べた機能や役割=その大前提としての住居機能を公的に保障するところから始まっているからです。だからこそ、その質的発展として、又、基本的人権の尊重という憲法の趣旨からしても個室化が促進されることとなったことは当然のことです。それは基本的には公的な責任において進めるべきものであり、利用者への負担転嫁は絶対に許すことができません。これからも多様なニーズに応えて多様な施策が作られることとなっても、特養は老人福祉の要として、憲法25条を土台にしながら憲法13条に示される個人の尊重や幸福権を具現化するものとして存在することが求められているのです。

Dあらゆるニーズに応える特養を=「特養解体論」を批判する

 最近の特養の運営や政策的誘導を巡ってはかなり支離滅裂な方策が検討または実施されようとしています。入所指針による判定によって自ずと最重度の障害高齢者の入所が促進されることは明らかであり、軽介護の対象者は特定施設入所者生活介護の利用へと誘導されようとしています。その一方で、特養は「小規模生活単位型」として個室化を始めとした住環境の整備を進めると共に、これまで特養がもっていた機能の一部を無くす方向が顕著となっています。事務室や宿直室、霊安室の不要、居住福祉型特養にあっては寮母室、看護師室、静養室の不要、将来は医務室の廃止や福祉施設への医師、看護師の派遣労働容認までが検討されています。その理由として「普通の生活」や「限りなく在宅生活に近づける」ために、在宅にないものは全て不用とばかりの言い分のようです。
 このような方向性を見ますと、一体特養にはどのような障害の方が入所され、どのような役割、機能を果たすことが求められていると考えているのでしょうか。多分、現状認識に大きな過りがあるのでしょう。特養は、生活施設として健康の維持増進からリハビリ、可能な限り自立した生活を営むための援助やサポート、そしてターミナルケアまで、一人ひとりに対してあらゆるニーズに応えるサービスを提供することが求められているのではないでしょうか。
 昨今の運営要項等の極めて恣意的な改定と政策誘導は、多くの入所申請者が望む特養とかけ離れ、又、職員の夢や希望、働く情熱をも奪い去ってしまいかねません。現在の特養がもつ機能を一層強化する方向こそ、国民の期待に応える道であることは疑う余地がありません。

もくじ|3|

主張・活動の紹介トップへ